素直になんかなれない
「それでいいんだよ。」
「…は?」
「その“好き”って気持ちを、ただ相手にぶつける。それだけでいいんじゃないか?」
…好きって気持ちを、相手にぶつける。
たけ兄が口にした言葉を、心の中で噛み砕いてゆく。
そして、たけ兄はポンと俺の頭を撫でて言った。
「相手が不安になるって事は、昴のその“好き”って気持ちが伝わってないからだろ。」
「…寧々、に…?」
「そう。まだ、昴の愛情表現が足りないから。俺はそう思うけどなぁ。」
愛情表現、か…。
言われてみれば、俺はあの告白から
寧々に『好きだ』と伝えた事、あっただろうか。
俺の記憶が正しければ
付き合って4ヵ月、言ってない気がする。
だけど、あんなド派手な告白をしたのだ。
言わなくても伝わってると思ってた。
傍に居る事で、自然に伝わってるモノだと…。
「女の子ってのは、すぐ不安を溜め込むからさ。ちゃんと言葉にしてやるんだよ。」
「…たけ兄も、ちゃんと言ってた?」
「いや、俺は全然。でも、真弓に言われたんだ。」
「真弓さんに?」
「そう。大喧嘩した時にね、」
『健は、言葉が少なすぎる。それじゃ、何にも伝わらないよ!』
「それで思ったよ。後で言えばよかった、って後悔するよりも、恥ずかしくたって言葉にしなきゃ、って。」
そう言って、たけ兄は笑う。