素直になんかなれない


不思議だった。


あんなにも悩んでいた事が、たけ兄の言葉でするすると溶けていって。



「それに、思わないか?」

「……何を?」


ふっと眉を下げたたけ兄に
俺の心を支配していたモヤモヤは

霧が晴れるように、雨上がりの空のように


全部、吹っ飛んだんだ。




「必要だ、と思ってる人に、必要とされる事はどれだけ幸せなのか、ってさ。」




必要だと思う人に
同じように思ってもらえる、幸せ――――。




「…たけ兄、」

「ま、俺から言える事はそんくらいだなー。」

「……うん、ありがとう。」


ありがとう、たけ兄。


たけ兄は、いつも俺に
正しい答えを導いてくれる。


いや、それが正しいかなんて本当のところはわからないけど
たけ兄は、俺の憧れなんだ。

そんな兄貴が言うからこそ、俺の心に響く訳で。


何つーか、やっぱ…。



「…たけ兄には負けるわ。」

「ん?何だって?」

「いーや、何でもねーよ。」



俺、きっと一生勝てないな。
たけ兄には。





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