鬼 鴉【総集編】
――九州、中央街――
その青年は街の表参道を離れ、人気の少ない裏道を歩いていた。
右手には、一枚の紙切れが摘まれている。
青年にとって唯一の手掛かりであり、その紙切れ一つを街行く通行人に見せては、己の欲する情報を集めようとしていたのであった。
首を横に振るう町人。
幾度、十何度目かの失敗も、青年を諦めさせるには至らなかった。
「アンタ……、なにか捜しているらしいな?」
不意に後方より声が掛かり、青年は呼び止められる。
「……」
青年は声を掛けたと思われる人物を、肩越しに見やった。
そこには大小の刀を脇に備えた侍が独り、ポツリと立っている。
長い黒髪を後頭部で結っており、その小顔の中に凜とした目と、スラリと伸びる鼻、憂いを帯びた唇で形成されていた。
眉目秀麗とは、こういう事をいうのであろう。
そしてその立ち振る舞いには、一分の隙もない。
そんな侍が、一瞬にして青年に対し恐怖を感じているのであった。