鬼 鴉【総集編】
「なんでアンタは、手を貸さない?」
闘兵衛は桃太郎の視線を受け止め、問いただす。
「私には、私の役目が、ある……。だから、紙洲親分も、声を掛けなかったんだろう……」
桃太郎は目線を落とし、独り言のように答えた。
夕日が山に隠れ、闇が訪れ始める。
一刻の沈黙の後、闘兵衛は重い口を開いた。
「俺は……、他人の為の拳になるつもりはない。今までも、これからも、俺の意志で拳を振るう。……だが、今回はあんたの助言を聞こう。ソレの良し悪しは、いずれ判断する事になるだろうが、な?」
桃太郎は振り返ると、歩を進める。
「……動かない奴には、選択肢すら、ないんだ。立ち止まったら、ソコで終わりになる……」
闘兵衛は、桃太郎の呟きを聞き逃さなかった。
小さくなる桃太郎の背中を見送り、闘兵衛は己の拳を握り締める。
日が沈み、小川に月明かりが射し込み始めた刻、闘兵衛の姿は闇の中に消えていった。