【短編】桜花爛漫
・ その想い、蕾のように
木々から溢れる眩い光に誘われて
見上げれば一面に桜色の空。
散りゆく花びらが
頬をそっと優しく撫でた。
「サクラ……散る……」
八分咲きのソメイヨシノ。
今から満開の時期を向かえるというのに、散りゆく一片の花びら。
「な~に一人で黄昏てんの?」
出た……。
諸悪の根源。
「放っておいてよ。一人で桜見ているんだから」
覗き込む顔から目を背けて上空を見上げる。
それも一瞬。
今度は上から覗きこまれ、彼の顔が間近に迫った。
「ヒーデー」
「ん? 何?」
何食わぬ顔で動こうともしない、秀俊ことヒデ。
「キス、しないでよ」
目を逸らさずに睨み付けると、
「どうかな〜?」
口元を緩ませ、目尻に皺を寄せて微笑した。
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