【短編】桜花爛漫
o 散るか咲くか、恋の花
「あれっ、結依? まだこんなとこいたんだ、もうみんな戻ってるよ」
「……ちょっとね。ぼんやり桜眺めながら歩いてて」
手を洗った後、みんなの元に戻らずにいると、七瀬とバッタリ遭遇した。
「うーん。よし、ちょっと話しようか」
そう言って私に笑顔を向け、人の間をかいくぐって道の端に咲く桜の木の下で立ち止まる。
花見をするには少し物寂しい、背丈が低く細い桜の木。
ひっそりと咲くその桜にそっと寄り掛かる。
「あれから……」
「うん……」
風が吹き、目の前を揺れる枝に咲く桜の花を自然と目で追う。
「ヒデと進展あったのかと思ったよ。さっきの雰囲気もさ」
えっ? 私とヒデが?
私は勢い良く七瀬に顔を向けた。
「そんなことあるわけないし! あの日のことだって人のことからかっていたとしか思えない……」
ありえない発言に驚き、慌てて否定する。
あのヒデと何か?
そんなことあるわけない。
「うーん、ま、あのキスは。ねぇ……」
七瀬は呆れたように深いため息をつき、苦笑した。
あの日――。
内定通知をもらった日。
桜咲いた私に降り掛かった、桜散る出来事。