【短編】桜花爛漫
大声を出したせいか、七瀬どころか他の花見客までこっちを見てきた。
「プッ」
「七瀬何で笑うのよぉ……」
恥ずかしさから顔が熱くなっていく。
横で吹き出す七瀬は、笑顔を浮かべて私の顔を覗いてきた。
「結依がそんな大声出すなんて珍しいなぁって思って」
優しい微笑みが心の中にしみこんでくる。
らしくない自分の行動に戸惑い深いため息をつく。
一体、どうしたんだろう……。
その理由は、多分。
「結依が彼と別れてからそんなに落ち込んでないのって。きっと、私の勘違いじゃない、よね?」
「……分からない」
分からないんじゃない。
認めたくないんだ。
彼のこと本当に好きであれだけ頑張っていたのに、もう別の男に心が揺れ動いていることを。
ましてやそれが……。
「あんな軽い男……」
ボソッと呟いた。
「ちょっと待って?」
それは七瀬の耳にも届いたみたいで、少しばかり怪訝そうな顔色を浮かべる。
「あいつはねぇ、一見軽そうだけど。本当はずっと誰かを想っていたみたいよ?」