【短編】桜花爛漫

「えっ?」


風が吹く。

揺れる桜。

誘われるように一歩前に歩き、枝に咲く桜の花びらを眺める。


「結依はさ、ずっと彼だけしか見えていなかったでしょ? あいつ見てたらさ、誰かに想いを寄せているんだろうなってみんな薄々感じてたし」

「……」

「まぁ、その相手が誰かなんて分からなかったんだけどね、あいつってば隠すのうまいんだから……」



明るい日差しが辺り一面を照らしだす。

眩しい光に目が眩み、思わず閉じてしまいたくなるほど。

それでも空を見上げれば、
鮮やかな桜色の空。

自ら目を逸らさなければ、
見えてくる真実。



「あの日のキスで、ヒデがずっと想いを寄せていたのが誰なのか……。
フフッ、結依も少しは感じてるでしょ?」


認めたくなくて。

信じられなくて。

目を背けていたことを突き付けられる。


「ヒデが私を……」


本当に?

あのキスは……本気?


「軽そうに見えて、結依にキスした以外は誰にも手を出していないみたいだし」

「私……だけ?」


不意に七瀬を見れば、静かに頷いた。


「きっと、ヒデは結依のこ……」


言い掛けた言葉を七瀬が突然止めた。

不思議に思って声を掛けようとしたら

フワリ。

後ろから優しく抱き締められた。



「七瀬、そこまで」




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