【短編】桜花爛漫

「ヒデ……」


抱き締められた体が熱い。

春の陽気より

夏の暑さより

ずっとずっと熱い……。


「離して」

「おぅ、悪かった」


自分で言ったくせに、あっけなく離れる体が少し寂しい。


「七瀬、ちょっと結依借りてく」

「私は物じゃない」

「フフッ。はいはい、連れていかせてもらいます」


微笑んで私を見つめる眼差しが、目に焼き付いて離れない。


「じゃ、私は先に戻るから」


ヒラヒラと手を振り、私の横を通る時に「ちゃんと向き合うんだよ」って耳元で囁いて七瀬は去っていった。



二人きり――。

どうしていいのものか分からずに俯く。

地面の上に一片の花びら。

桜色の花びらが、陽に照らされて白く光り輝く。

それは儚くも綺麗で……。


「ちょっと、手っ!!」


またしても突然手を握り締められた私は、ヒデに顔を向けた。


「離さない」


真剣な顔つきでそう言った後、零れるような笑顔になる。


トクン……。

胸が音を立てる。

ヒデのせいで桜の木のようにそよぐ心。


「来週の土曜の夜、暇?」

「ひ……暇だけど」

「じゃあ、7時。ここで二人で会おう。約束な」


強引に話を進め、あっさり手を離して去りゆく彼。

これじゃあ……
さっきと同じじゃない。


「ちょっと待ってよ!」


大きな声を出して呼び止めると、振り向いたヒデは悪戯っぽく笑って叫んだ。



「俺は結依が好きだよーっ!!」




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