【短編】桜花爛漫
薄暗くなった辺りを街灯が明るく照らしだす。
満開の桜をライトアップさせる照明の数々。
その下で花見を楽しむ人たちを横目に、あの桜の木へと近づいていく。
一歩一歩。
踏みしめるように、ゆっくり進んでいく。
大勢の花見客の騒ぎ声も、そよぐ桜も、気にならないくらい胸が激しく音を立てる。
緊張する。
会って何を話せばいいんだろう。
今まで何を話していたのだろう。
考えれば考えるほど訳が分からなくなってきて。
「はぁ……」
ため息をついて俯いた。
目に映る地面に落ちた無数の花びら。
あれだけ綺麗に咲き誇らせていた花びらが、今はぐちゃぐちゃに踏まれて鮮やかさを失っている。
彼との恋が終わってからというもの、私も心もぐちゃぐちゃ。
儚く散った桜がまた花を咲き誇らすには時間がかかるように。
別の誰かを好きになるには……。
「ヒデ……」
その場に立ち止まった。
あの日を思い出す。
人目も気にせず言うだけ言って、去っていった彼。
相変わらずあの細くて低い桜の木の周りには人がいなくて。
照明さえついていない辺りは閑散としていた。
暗がりの中、上空を見上げ佇むヒデ。
その時――。
風が吹き、ヒデの周りを花びらが舞う。
桜吹雪。
まるで映画のワンシーンのようなその光景を遠くから眺めていた。
「あ、結依っ!!」