【短編】桜花爛漫
桜吹雪に導かれるようにこちらに顔を向けたヒデは、
私に気付くと零れ落ちそうなほどの笑顔になった。
何だか……
気恥ずかしくなって顔を逸らしたくなる。
「こっちおいで?」
聞いたこともないような甘い声を出して手招きをするヒデ。
……調子狂うし。
なかなか動きださない私に痺れを切らしたのか、ヒデがこちらに向かってくる。
ドキドキと高鳴る心臓。
金縛りにあったかのように、私はその場に立ち尽くしていた。
近づくヒデ……。
柔らかく微笑んで見下ろす優しい眼差し。
「一週間ぶり、来てくれてありがとな」
「う、うん」
いつものヒデらしからぬ言動に戸惑いを隠しきれない。
うまく言葉が続かない。
「あれっ? もしかして緊張してる?」
「……そんなことない」
「ふーん、そっか。フフッ」
悪戯っぽい笑顔を見せると、そっと手に触れてきた。
そして、指を絡めて持ち上げると、口元に寄せて手の甲にキスを落とした。
「好きだよ、結依」
その手を振りほどくことなくヒデの顔を一点に見つめる。
ヒデがくれる温もりに心が揺れ動く。
私……
ヒデのこと……。