【短編】桜花爛漫
口元に違和感を感じて目を開けてみる。
目前に迫るヒデの顔。
指でそっと唇に触れてみると、桜の花びらがヒラヒラと落ちていった。
「あっ。サクラ……散る……」
その花びらを見て、私は我に返った。
急いでヒデの手を振りほどく。
突然のことにヒデは目を開いて驚きの表情を見せる。
「ごめん……」
私、何してるんだろう。
彼と別れたばかりなのに。
「私、ヒデの気持ちには応えられない」
彼への気持ちもまだ消えていないというのに。
それに、ヒデの気持ちだっていつかは儚く散ってしまうはず。
彼のように……。
「んー、彼氏と別れたばかりだから?」
「えっ!?」
「その顔は図星ってとこかな。ま、結依らしいけどさ」
クスクス笑いながらヒデは私を愛しそうに見つめてくる。
チクンと痛む胸――。
期待させるようなことをした罪悪感。
「それだけじゃない……」
「ん?」
「ヒデが悪いわけじゃないの、だけど……。
私、まだ彼のこと好きだから。それに今は“好き”って気持ちが信じられない。ヒデのこと信じきれない。
いつか終わってしまうなら、始めなければいいって思ってしまうの」