【短編】桜花爛漫
「結依は俺のこと好きになるよ」
突然耳元でそっと囁かれる。
何て自意識過剰な発言。
だけど、揺れ動く心がその言葉はあながち間違ってはいないと思わせる。
「大体さー、別れがあるから出会いがあるんだし。終わりがあるから始まりもあるわけじゃん」
抱き締められた手が少し緩むと、片手を握り締めたまま前に伸ばした。
「彼のこと忘れられない? 俺のこと好きならそれでもいいんだけど」
「……何、言ってるのよ」
相変わらず耳元で囁くヒデに胸の高まりが治まらない。
ヒデが、握り締めていた手のひらをひろげた。
一片の花びらが
ヒラヒラ
と舞い落ちていく。
「桜が満開を迎える前に散り始めて葉をつけるように、恋だって誰かを忘れられなくても別の誰かに惹かれ始めることだってあるでしょ」
地面に落ちた一片の花びらが、他の花びらに混ざり行方を見失う。
「散ったらまた咲かせばいいだけのこと。フフッ、俺だって何度結依のこと諦めようとしたことか……。
だけど無理なもんは無理、今はもう俺の心に咲き乱れてるよ、結依への想いが」
「何でそんなに私のこと……」
「んー、何でだろうね? まぁ、俺の気持ちは結依が言ったみたいに散ることはないから」
柔らかい声。
さっきまで震えていた体が落ち着きを取り戻していく。
ヒデの言葉が、心に染み込んでいく。
素直に、嬉しい。
そう思った。
「ってか結依は俺のこと好きになるし? 結依が“好き”って言うまで、俺は何年でも何十年でも待ってる。
それまでは今まで通り友達な? よし、俺の言いたいこと終わり」