【短編】桜花爛漫
抱きしめられていた手が離れる。
「咲かぬなら咲かせてみせよう……」
「え? 何?」
風が吹く――。
舞い散る花びら、桜吹雪。
さっき見たよりも何だか儚くも綺麗に見えるのは
ヒデの言葉を聞いたから?
「あ……。まだ聞きたいことがあるんだけど。今の言葉とか、信長とか!」
風に舞う花びらのように、去りゆくヒデ。
慌てて声をかけた私に向かって、
「結依が俺のこと好きって言うまで教えてやんない」
振り向き様にアッカンベーなんかして、大きく手を振って笑顔を向けた。
「……子ども」
そんなヒデを見てクスクスと笑いが出てきた。
……私は、姿が見えなくなるまでずっとヒデの後ろ姿を眺めていた。
不意に空を見上げる。
桜咲き乱れるこの季節。
「言うだけ言って帰っちゃうし。
……終わりがあるから始まりもある……か」
ヒデのキスで、
必死にしがみついてズルズル続いていた恋が終わって。
そんなヒデのこと意識し始めて。
恋の始まりは本当に突然。
心の中にできた蕾。
別に悪いことじゃないのかな。
ヒデのせいで。
心かき乱されたけど、少し軽くもなった。
サクラ……咲く……。
そして、サクラ……散る……。
蕾のように芽生えた想い。
今すぐ咲かせることはできないけれど。
もしも、桜が咲き乱れるように私の心もヒデでいっぱいになれば。
また桜咲き乱れるこの季節がやってきて、それでもヒデが私のこと想っていたら。
その時は、もう一度“恋”を始めてみてもいいかな。
「それにしても、あのヒデが私のことを好きだったなんてね」
未だ信じがたい現実にため息をつきつつも、自然と笑顔になっていた。
桜色――。
淡く優しい色……。
【END】