【短編】桜花爛漫
「結依飲んでないじゃん、ほらっ!」
「ありがと」
右隣に座っている和斗がビールを差し出してきた。
それを受け取った私は一気に飲み干す。
「さっすが結依! 俺より飲みっぷりいいしな〜」
あっと言う間に空になった缶。
和斗はそれを私の手からひょいっと取り上げてビニール袋に入れた。
そして、クスクスと笑いながら、
「はい、飲むだろ」
ブルーシートに転がっていた新しいビールを手渡してきた。
「ありがと。和斗はお酒弱いからね〜」
そう言って、二本目のビールも一気に飲み干していたら、隣から深いため息が聞こえてきた。
「そうなんだよなー。就職してからが心配」
「和斗の希望は営業職だっけ?」
「そうそう。飲みごととか多そうじゃない? 俺大丈夫かな……」
両手でビールの缶をしっかりと握り締め、真剣に見つめている。
そんな姿に自然と笑みが零れていた。
「フフッ。まずは内定もらってからの話でしょ?」
軽く背中を叩くと和斗はがっくりと肩を落とし、頬を膨らませてキッと睨んできた。
「そう言う結依はどうなんだよ」
「え、私? 内定もらったよ」
「は? まじで!?」
「こんなことで嘘ついてどうするのよ」
クスクス笑いながら三本目のビールに手をかけた時だった。
和斗が急に立ち上がった。
それに合わせて顔を上げると、和斗の頭上をヒラヒラと舞う桜の花びらが見えた。
あ……
サクラ……散る……。