【短編】桜花爛漫

「ちょっとみんな聞いてくれ! 結依が内定もらったって!」


暫らくの沈黙――。

そして、私に一点に集まる視線。



「まじでー! おめでとう結依、内定第一号じゃん!」

「うわ〜っ、羨ましい」

「春が来たね、春が!」


歓喜の声と沸き上がる拍手。

みんなに称賛され、何だかくすぐったくなる。


サクラ……咲く……。

そして、サクラ……散る……。


「ねえ、勤務地はやっぱ地元? それともここ?」


一人立ち上がったままの和斗が問い掛ける。


ゴクン――。

唾を飲み込み、笑顔を向けた。


「多分、東京……」



カランカラーン。



「ちょっとヒデ! 何やってるのよ!」

「アハハッ……。悪い悪い、手が滑った」


ブルーシートにこぼれたビールをみんなで慌てて拭いていく。

珍しい……。

ヒデがこんなことするなんて。


「あ〜っもう。バッグまで濡れたし。……うわっ、ビールくさっ! ちょっとヒデ、責任とってよ!」

「俺の体で?」

「いるか、ボケ!」


……やっぱりいつものヒデだ。

そんな会話を聞きながらため息をついた。

明るく照らす陽とは対称的に心に靄がかかる。


ヒラヒラ……

ビールの上に浮かぶ一片の花びらは、

一緒に拭き取られて

丸めてビニール袋に捨てられる。


「私も……」


この想い捨てないと――。


「結依どうした?」

「……ううん、何でもない」


七瀬に声をかけられ我に返った。

彼と別れてから、一人でボーッとする時間が増えたみたい。

気を付けないと……。




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