【短編】桜花爛漫

「はーっ、片付いたぁ。手洗いに行くね」


その言葉に何人か続いて手を洗いに行った。

結局残ったのは、私とヒデと七瀬と和斗。


「結依〜、先に行っておいで。私あまり汚れていないし」

「うん、じゃあそうさせてもらうね」


ボーッとして拭いていたせいか袖も捲っておらず、ビールが染み込んでいた。

早く洗わないと匂いがとれないかも……。

立ち上がって靴を履き、上空を見上げながらゆっくりトイレへと向かった。


たくさんの人

たくさんの桜

春の訪れは、たくさんの出会いと別れ。


「ゆーいーっ!」


後ろから私を呼ぶ叫び声。

その主が誰かなんてすぐ分かる。

だから、振り向かない。


「ハァハァ……お前、気付いてんなら……ハァハァ……止まれよ」

「別に、ヒデなら余裕で追い付くでしょう?」


口元を緩ませて微笑み、歩くスピードを上げていく。


「いや、結構きついんだけど」


そう言いつつも既に呼吸の乱れも落ち着き、隣を歩くヒデ。

両手をポケットに入れて正面を見据える凛とした横顔。


不意に重なる視線が

痛い……。




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