【短編】桜花爛漫
「なーに? 俺に見とれてた?」
「フフッ……自意識過剰ね」
「うわっ、結依は冷たいなー。ま、いつものことか」
当たり障りのない会話を続けていく。
いつもこんな感じ。
あの日だって、こんな風に普通に会話していたんだ。
なのに――。
「なぁ……結依?」
少しトーンの下がった低く重みのある声。
あの日と重なるその声色に、体がビクンと反応する。
「……何?」
平静を装って正面を向いたまま問いかける。
だけど……
胸はバクバクと激しく音を立てる。
高鳴る胸に気付かれないように、今より早足で歩き出す。
「信長と秀吉と家康だったら、結依は誰選ぶ?」
「……はぁ? 何、突然」
質問の意図が理解できなくて、私は立ち止まってヒデへと顔を向けた。
何なの……
その視線……。
愛しいものでも見るかのように、優しい表情を浮かべて、
「俺はね……」
囁くように言葉を続けた。