マーブル
「お疲れ様。今日も春樹の所?」
春樹の紹介で働き始めたこの店の髭のマスターは、毎晩のようにからかうようにそう笑う。
「……まぁ、そうです」
マスターの好意で当分の間日払いにして貰っている給料袋を握り締めると、春樹の働くクラブへと向かう。
裏から入って来いよ、春樹はそう言うけれど、演奏前の彼は押し黙り精神を統一させているのを知っているから……邪魔したくない。
彼の手から零れる音楽や唄がその日の気分で毎回変わり、即興で作られている事に気付いたのは最近の事だ。
溢れんばかりの才能は、今夜も人を惹きつける。