討竜の剣
汚竜との戦いによる疲労も癒えると、もうドーラに残っている理由はなくなってしまった。

俺はファイアルへと戻る。

ドーラを発つ朝、ナハトと街の人々が見送りに来てくれた。

「ナハト…討竜の剣、もらっちまっていいのか?」

ナハトが新しく作ってくれた普通の鞘に納めた剣を見ながら、俺は言う。

「私は狩猟者じゃないし…剣術もわからない…アキラが持っていた方が…討竜の剣は幸せ…」

ナハトはそんな事を言って軽く微笑んだ。

多分見納めになる、彼女の笑顔だ。

「…アキラ…色々と有り難う…アキラは…ドーラの救世主…」

「やめてくれよ」

俺は苦笑いする。

俺はナハトが作った討竜の剣をがむしゃらに振るっただけだ。

ナハトが自ら動かなければ、ドーラは汚竜に滅ぼされていただろう。

ドーラの救世主はナハトだ。

もし誰かが英雄として称えられるのならば、それはナハトにこそ相応しい称号。

「俺は、のんびり狩猟者をやっていた方が性に合うよ」

今思えば、それは照れ隠しだったのかもしれない。

俺は頬をかきながら笑っていた。

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