Melty Kiss 恋に溺れて
私が後何年経っても、ああいう風にはなれないんじゃないかと。

お母様を見るたびに、少しだけ私は切ない気持ちになってしまうのだ。

和服をそつなく着こなして、瞳だけで人を殺すほどの眼力を持っていて、指先にまで配慮の行き届いた仕草で、その声音は相手によって百色にも使い分けていらっしゃる。

――万が一。

万が一にも、私が大雅と結婚できるのなら。
私はきっとこんな女にならなきゃ駄目だ。


だけど。
こんな、極道の総本山みたいなところで育っている私なのに

『都さんは一般人です。
極道ではありません』

と言われ続けて育てられているので、私には『極道』らしきものなんて何一つ身についてはいないのだ。

唯一、人より凄いと思われるのは、柔道や合気道などの武道に秀でていることくらいだろうか。

それだって、大雅が習っているのを見てどうしても私もやると泣いて縋って教えてもらったからなだけで。

ああ、そうか。
だから、大雅が出来ることは私も一通りは出来るのだ。

一通りの銃は取り扱えるし、日本刀で豚を切り殺したこともある。



だけど、所詮それだけのこと。

私は人を殺したことも、痛めつけたこともないし。
これと言った違法行為に手を染めたことも無い。

こんな荒みきった世界で、両親すらまともに私の面倒を見てくれなかったというのに、周りの愛すべき人たちが私を愛して育ててくれたから。

多分。

私はかなり「普通の」女子高生なのだ。

とても残念なことなのだけど。
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