Melty Kiss 恋に溺れて
初めて都さんを見たのは、彼女が生まれて間もない頃だった。

『俺の女が子供産んでさ。
ね、可愛くない?』

いつもと寸分変わらぬ調子で、紫馬さんが見せてくれたのはまだ猿にしか見えない新生児だった。

俺は当時5歳そこそこのガキだったけど。
こんな環境で育っていたからか、同い年の子よりは十分成熟していたと思う。

『親バカだね、紫馬さん。僕には猿にしか見えないよ』

そんな風に応えた記憶がある。
だってそんなことより、紫馬さんは当時高校生だったから。
平然と学生服を着ている人が新生児を抱えているほうが不思議だったのだ。

俺の母親なんて、真剣な顔して怒っていた。
だけど、紫馬さんはいつもと変わらぬ飄々とした口調で。だけどきっぱりと。

『何があってもこの子だけはちゃんと育てます。誓ってもいい』

って、言ってのけたんだよね。
あの頃から変わらず、紫馬さんは俺の憧れの人だ。


猿だった新生児は、しばらくの間母親が必要だと言うので、どちらかに連れて行かれた。
そして。
次に彼女を見たとき。

猿だったはずのあの子は、すっかりレディになっていた。

3歳だったか。
紫馬さんの手をぎゅっと掴んで立っていた。

目鼻立ちははっきりしていて、紫馬さんときっとお相手の誰かとの良いところばかりをぎゅっと集めたような美人だと、俺は思った。

まさかとは思うけど。
もしかしたら。
既にあの時から俺は、彼女に恋をしていたのかもしれない。

まぁ、ありえないとは思うけど。
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