Melty Kiss 恋に溺れて
こんなに惚れてしまう予定はなかったんだ。
基本的に、他人との距離のとり方は得意な方だし。

いつ、誰に裏切られても仕方が無いとさえ想っている。
今、この瞬間に俺が本当に心を許しているのは――

この、いつ見たって正体不明な気障な男である紫馬さんと、俺の両親、それに、都さんだけなんだ……


例えば、都さんが俺を諦めてくれないかと思って。
彼女を作ってここに連れて来た事もある。

痛々しいほどの笑顔を作って、歓迎の意を表してくれた都さんを見て、初めて自分の気持ちに気がついた。

偽りの彼女を抱くときには、いつだって都さんのことを想い描いてしまうズルイ自分にも、あるときふいに気がついた。

だから、それまでベビーシッターの延長のようにずるずる続けていた添い寝を止めた。
そうして、また、別の機会にキスまで止めた。

それでも。
そうして懸命に突き放せば突き放すほど。

どうしようもなく気になってしまうし。
また、彼女も俺の気を引くような事ばかり――それも、危険なことばかり――繰り返すようになってしまった。

今日みたいに、麻薬の売人にちょっかいを出すこともあれば、一人で情報を掴んで港の倉庫のリンチ現場に乗り込むこともある。

だから、余計に目が離せなくなって……


二人は、どうしよもない悪循環で繋がっているのだ。
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