世界から
「でも、本当はピアノなんて・・・」
「他に、やりたいことがあるのか?」
少女は黙っていて、何も答えなかった

「お父様もお母様も、先生も・・・みんな私の演奏を気に入ってくれているの」
少女は俯きながら話し続けた
「私の弾くピアノの音は、どこか悲しい音色がして・・・でも、それがいいって言ってくれるの。人の心に感動を与え、魂を震わせる音色がとても素敵だ・・・って」

シオンはこの国に入るときに聞こえた音を思い出した
きっとあれは、この子の・・・

「ピアノを弾いていると、とても悲しい気分になるの。ピアノを弾くのは嫌いじゃないわ、でも・・・好きでもないの。本当は・・・」
少女はそこで何か思い立ったようにしって、口を閉じた

「いつものようにピアノのお稽古をしていたら、家の前に男の子が立っていたのが見えたの。その子はこう言ったの、“何でそんな悲しい顔をしながら弾いているの?”って」

シオンとリクは黙って少女の話を聞き続けた

「その子にも今と同じような話をしたの。そうしたら、彼・・・エリオは少し怒ったようにして“何でそうまでしてピアノを弾き続けるのか”って聞いてきたわ。それで私は、こう答えたの、“それが私の存在する理由で、それが私の全てだから”・・・って」
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