衆道剣風録~契りの剣 三 死闘!高野山!
十一
京の街は大騒ぎとなっていた。
太閤秀吉は自分の甥、関白秀次を非行と謀反の罪で高野山に蟄居させ、三十余名の眷属を秀次の首の前で撫で斬り(皆殺し)にするという噂で持ちきりだ。
勿論、この噂は秀吉側から意図的に流されたものに違いなかった。
そして数日後、関白秀次は豊後の国に三万五千石の領地を持つ、木下大膳大夫吉隆の三百の兵に囲まれ高野山青巌寺に移された。
切腹を申し渡された秀次に従って追い腹を許されたのは、馬廻り役雀部淡路守、近従の不破万作(十七歳)、山田三十朗(十九歳)、山本主膳(十九歳)。
修理は愕然とした。
儂しか出来ぬ事があると万作は言うが、一体何をすれば良いのだ!
切腹の日は十五日と決まった。
捨吉が、息を咳ききって庄左右衛門の屋敷に帰ってきた。懐から油紙に包まれたものを出した。
「捨吉、万作殿からか!」
「へえ!木村様の御近従からこれを・・・」
捨吉が持って帰ったものは万作からの書状と絵図面であった。
海道修理様
ゑ図面のぬけみち
その日にご加護を
あいては参人のてだれ
おにのやうなものども
修理様にはお果てつかまつるやも
いちごの契り本心なり
あはれとおもひあれば
ご加護を
万作
庄左右衛門と修理は絵図面を見た。それは高野山、青巌寺の『柳の間』と呼ばれる茶室の隣の講堂に通じる、地下に掘られた秘密の抜け穴の地図であった。
庄左右衛門は修理を見た。
万作は修理に関白の切腹の場に居て欲しいと願っている。
三人の手練れとは?それに修理も討たれるかも知れないと書いてある。
秀吉は一体何を考えている!
「行くのですか?」
庄左右衛門が聞いた。
「ここに契りは本心也と書いてあります」
「一夜の事です。万作殿の藁をもすがりたい気持ち、分からぬでもないが、命を捨てに行くことはない。これも秀次様の御運命なのじゃ」
「・・・」
修理は濡れ縁に座り一人考えていた。七月十四日晩のことである。
太閤秀吉は自分の甥、関白秀次を非行と謀反の罪で高野山に蟄居させ、三十余名の眷属を秀次の首の前で撫で斬り(皆殺し)にするという噂で持ちきりだ。
勿論、この噂は秀吉側から意図的に流されたものに違いなかった。
そして数日後、関白秀次は豊後の国に三万五千石の領地を持つ、木下大膳大夫吉隆の三百の兵に囲まれ高野山青巌寺に移された。
切腹を申し渡された秀次に従って追い腹を許されたのは、馬廻り役雀部淡路守、近従の不破万作(十七歳)、山田三十朗(十九歳)、山本主膳(十九歳)。
修理は愕然とした。
儂しか出来ぬ事があると万作は言うが、一体何をすれば良いのだ!
切腹の日は十五日と決まった。
捨吉が、息を咳ききって庄左右衛門の屋敷に帰ってきた。懐から油紙に包まれたものを出した。
「捨吉、万作殿からか!」
「へえ!木村様の御近従からこれを・・・」
捨吉が持って帰ったものは万作からの書状と絵図面であった。
海道修理様
ゑ図面のぬけみち
その日にご加護を
あいては参人のてだれ
おにのやうなものども
修理様にはお果てつかまつるやも
いちごの契り本心なり
あはれとおもひあれば
ご加護を
万作
庄左右衛門と修理は絵図面を見た。それは高野山、青巌寺の『柳の間』と呼ばれる茶室の隣の講堂に通じる、地下に掘られた秘密の抜け穴の地図であった。
庄左右衛門は修理を見た。
万作は修理に関白の切腹の場に居て欲しいと願っている。
三人の手練れとは?それに修理も討たれるかも知れないと書いてある。
秀吉は一体何を考えている!
「行くのですか?」
庄左右衛門が聞いた。
「ここに契りは本心也と書いてあります」
「一夜の事です。万作殿の藁をもすがりたい気持ち、分からぬでもないが、命を捨てに行くことはない。これも秀次様の御運命なのじゃ」
「・・・」
修理は濡れ縁に座り一人考えていた。七月十四日晩のことである。