彼女が天国にさらわれました。
誘拐
それはあまりにも突然だった。
三年も一緒に居た彼女が死んだ。
死の報告は突然すぎて、何も考えられず、仕事中にも関わらず俺は遠くを見てしまっていた。
そして仕事を途中で抜けさせてもらい、今は彼女の亡骸がある病室。
中は恐ろしいほど静かだった。
先に駆けつけていた彼女の親はこう言う。
「親を置いて先に逝くなんて。」
そう言いながら、涙を流す。
死んでいる彼女の顔は怖いくらい穏やかで、笑っている様にさえ見えてしまった。
もともと体の弱かった彼女の優里、まさかこんな形で別れるとは思いもしていなく。
頭は優里が死んだという事を受け入れる事に必死で不思議と涙が流れなかった。
俺の神経はイカれてしまったのだろうか。
「優里。」
そう言って頬に手を添える。
まだ温かいのに彼女は息をしていない。
まだ温かいのに。
「勝手過ぎるわよね、結くんと結婚の約束までしてたのにね。」
本当だ、優里は勝手だ。
仕事中なのに電話してきたり、いきなり俺の家に上がり込んだり。
「結婚したい」って言ったのはお前じゃないか。
「そうですね、本当に。」
そう言うと母親の雅子さんは涙を拭きながら笑っていた。
「女手一つで今まで育ててきたのに、親不孝な子、本当にこの子は仕方ない子ね…」
そう言って泣き続ける雅子さんに、俺は何も言えなかった。
その後、優里の遺体は霊安室に運ばれて、俺は病院を後にした。