クライシス
「社員が相手の情報を掴もうとはしてますが・・・相手もなにぶん下っ端の社員が多くて・・・商品については何も・・・」


木下は隠語を使う。


どこに盗聴器が仕掛けられているかも知れないからだ。


情報の世界に身を置く者としての常だ。


「そうか・・・アメリカ支社の奴らは・・・?」


「全くです・・・」


二人は黙る。


「社長(警察庁長官)からも、急いで情報を集めろと言われてる・・・」


河野の言葉に木下が顔を上げた。


「これを解決すれば・・・俺もお前を上へ引き上げる事が出来る」


河野はグラスを空けた。


木下はビールを河野のグラスに注ぐ。


「俺も、次の次には長官のポストに行くつもりだ・・・」


「分かってます・・・」


「お前も、まだ38歳だ・・・これを解決すれば次は県警の本部長を任せる事が出来るかも知れん・・・」


木下は黙って河野を見た。


「だから、なんとしても解決しろ・・・」


「かしこまりました・・・」


二人はそのまま黙った。


しかし解決の手立てが無い。


情報が少な過ぎる・・・


河野も分かっているのだろう・・・


だから何も言えないのだ。


木下はグラスを握りしめていた。
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