変わらないコーヒーの味
 その時遠くからサイレンの音がして、瞬く間に救急車が到着した。


 「怪我人をこれに。」


 ストレッチャーと共に降りてきた救急隊員は、手際よく美紀をそれに乗せた。

 まるで、俺の手から攫うように。


 「美紀を!美紀を助けてください!」

 「全力を尽くします。あなたは、怪我人のお知り合いですか?」

 「こ、恋人、です。」

 「じゃあ、宜しければ車内に。」


 半ば救急隊員に縋るように立ち上がり、車内へと案内される。


 「あのっ!…これ、その人が持ってたものです。」


 スーツ姿の男性に付き添われた優しそうなOL風の女性が、差し出してきたものを反射的に受け取る。

 それは、






 もう使い物にならない紙袋に包まれたデートスポット情報誌と丁度今し方始まったであろう回の映画のチケットだった。
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