ーキミノイナイセカイヘー
「ゴメンネ。待たせちゃって」

「全然いいよ。俺が早く来ただけだし。てか、久し振り」

ナツの満面の笑みとは対照的にミカンは「うん」と短く笑った。

「取り敢えずぅ、どっか行く?」

「ううん。ここでいい」

「えっ!?」

タクシーのクラクションがミカンの答えを邪魔する。

「マジうぜぇ!まともに話も出来ねぇじゃん。取り敢えずどっか行こうぜ」

ナツはミカンの手を取り引っ張ったがミカンは動こうとしない。

「何!?早く行こうぜっ」

「ここでいいの」

ミカンが頑なに言う。

ナツは手を離し、

「俺ここ嫌だよ。あっち行こう」

そう言って、ミカンに背を向け歩みを進める。

(付いてくるだろう)

すると聞いたことのない声でミカンが叫んだ。

「ここがいいのっ!!」

ナツは初めての事に狼狽(慌てる)し、ミカンの元へ歩み寄った。

思い詰めたミカンの耳にクリスマスプレゼントのピアスが無い事に気付く。

さっきまで、プロペラが無いくらいなら飛ばせられると思っていたナツの飛行機から、そいつは悪びれもせず左銀翼を奪っていった。

今迄保っていた、愛情のシンメトリー(釣り合い)は些細な事から崩れ始める。

そして、悪い予感という苦い果実だけが弾けんばかりに実のりだした。
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