ーキミノイナイセカイヘー
結局、名前を呼べずに無理に微笑むだけだった。

ミカンは何も言わずに又背を向け、蝶の様にヒラヒラと飛んで行く。


ナツはそれを見失わないように、瞬きせずに見つめた。


残っていた右銀翼さえも打ち壊され、両翼を喪ったナツの飛行機。

飛ぶことすら赦されず、墜落してゆくだけ。

堕ちていく途中

(天使になれたら、あの蝶を捕まえられるのに)

そんな事を考えていた。

置き去られたナツ。


哀しいあだめきを帯びた去り行く蝶を、やっぱり人ゴミに見失った。





愛し合った2人は

偽ったことで擦れ違い

思いやった事で深みに嵌まり

愛したが為に他人同士に還っていった。








「生きてくには哀しい事が多すぎる」








ナツの独り言は、誰にも聞こえることなく、静かに消えていった。
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