ーキミノイナイセカイヘー
(やっぱ詩を唄いたい。言葉で人にミカンに魅せたい)


それから毎日、ひたすら歌詩を書き続けた。


(パントマイムな人生では何も伝わらないなら、声にしなければ)


ミカンに伝えたい事が沢山あった。

せめて唄に想いを乗せて届けられるなら。

時折、沸き起こっていたタナトス[死への願望]も、それからは影を潜めた。



生きる意味を見付けたナツは笑顔も多くなり、充実した日々が過ぎた。


暦は巡り、3度目の夏に差し掛かった。






「171番、中澤、出房っ!」

朝の点呼の前、急にオヤジ[刑務官]に呼び出された。


(もしかして!?)


引き込み[出所1週間前に他の懲役と隔離される。作業もしなくてよくなる]だった。


(長かった~)


未来に詰め込まれた煌めきが弾けださんばかりに心が躍り、それを必死に隠した。

8月11日――――出所

一度も懲罰、訓戒を受けることなく5ヶ月の仮釈放をもらい、ようやく新しい人生を踏み出した。

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