ーキミノイナイセカイヘー
ゆっくりと近づくナツに

「お願い、来ないでっ!」

これ以上ないくらいの哀しい声でサクラが言う。


「ちょっと待てよ。何でこんなになってんの?俺のせいなら言ってくれよ!俺、頭わりぃから分かんねぇけど治せる事は治すからさぁ!」


「違うよ。ナツに悪い所なんてないよ。むしろ優し過ぎるくらい。まぁそれが悪い所かもしれないんだけどね」

「じゃあ、何でだよっ!全然説明になってないし、訳分かんねぇよっ!!」

ナツは近づいていいのか悩む。

「ナツ」

「何?」

「会えてヨカッタ。大好きだよ」



一瞬振り返ったサクラの顔は、あまりにも飾り気のない笑顔で、ナツはその翳りのない表情に気を奪われた。


その隙に、サクラは飛び込んだ。


ナツを想えば想う程に歪む、手を伸ばせば触れられそうな満月に。



あっさりとそして呆気なく目の前から消えた華奢なアマン[恋人]

何も出来ないまま

何をする事も思いつけないまま

ただ呆然と落花する月の雫を見つめていた。
< 62 / 186 >

この作品をシェア

pagetop