【バレンタイン短編-2009-】 俺のココ、あいてるけど。
セイジまでの距離
―――ポーン ポーン
『……業務連絡、業務連絡、長澤さん、至急事務室まで』
夕方、晩ご飯を買い求めるたくさんのお客さんの中、アップテンポな音楽の間を縫って店長のアナウンスがスーパーに響き渡った。
「あ、呼ばれちゃった。すみません、ちょっと行ってきます。すぐ戻りますから」
レジで仕事に追われるバイトの女の子に“ごめん!”と両手を合わせると、あたしは急いでバックヤードの事務室へ向かった。
行く途中、ヘルプに回れそうなパートのおばちゃんに「3番レジ、申し訳ないんですけどヘルプお願いします」と頭を下げて。
あたし・長澤ミクはスーパーで働く社員。ここに勤めて5年目の、平たく言うと“お局(ツボネ)さん”になりかけてる27歳。
でもなんか……年下のバイトちゃんにも年上のパートさんにも必要以上にヘコヘコ頭を下げちゃう、いわゆる“小心者”なんだよね。
だけど、あたしの彼氏・セイジだけは『ミクらしくて好き』って言ってくれるんだ。
だからあたしは、セイジと会えない今日も1人遠くの街で頑張っていられる。