【バレンタイン短編-2009-】 俺のココ、あいてるけど。
そのとき、あたしの気持ちを察したように携帯が震えだした。急いで確認すると、それはセイジからの着信。
「もしもし?セイジ?」
寂しいながらも気持ちが浮かないことはなくて、あたしはすぐに着信ボタンを押した。
「ミク?」
セイジの声。温かくて優しくて、少しかすれてて……一気に愛しさが込み上げてくる、一番聞きたかった人の声。
「うん、あたし……」
あたしは涙声になりながらセイジが呼んでくれた“ミク”に精一杯応えた。
「なんだ。その声の調子からすると、もう転勤の話聞いたのか?店長は相変わらずご健在か」
セイジは電話の向こうでアハハと笑った。まるで、これからもっと離れる距離のことなんてちっとも寂しく思っていないように。
「……そ、そうなの。店長ったらわざわざ忙しい時間に呼び出してね、何を言うかと思えばセイジの転勤の話……笑っちゃうよね」
「ミク……距離なんて関係ないだろ?寂しく思うことはないから」
心配させちゃいけないと思って明るく振る舞ったのに、セイジにはお見通しだったみたい。