私だけのスーパーマン





『はぃ?今、なんか言いました?』

振り向いた泉さんの顔はちょっと怖くて。


私の頬の筋肉が硬直する。



『分かってないなぁ…すみれさんは。


確かに、さっきの言葉はウソだよ。

でもさ、俺…バカだから。


自分の幸せより…

その人の、好きな人の、幸せのほうが大切なんだ。


だからもう、気にしないで。

それじゃあ…失礼します』


口調が、バーにいるときと同じで。

私は泉さんの本性を引き出してしまった。


言いたくないことを、言わせてしまった。


きっと…心の中じゃ、泣いているのに。


どうしようもない涙を

どうしようもない苦しみを

我慢しているのに。


私はなんてバカなんだろう。


遠ざかっていく泉さんの背中に呟いた。




「ごめんなさい……」










< 79 / 234 >

この作品をシェア

pagetop