君への距離~あなたに一番近い場所~
翼は自転車に乗ると杏のアパートに急いだ。杏の部屋の前にきてインターフォンを鳴らす。



「…杏ちゃん?」





返事はない。







翼が諦めて帰ろうとしたそのとき…



ガッターン!


杏の部屋の中で何かを倒した音がした。





翼はまたインターフォンを押す。



「気分悪くしたよね?ごめん…」





「…」
杏はシャワーを浴びて濡れた体にタオルを巻き、玄関のドアにもたれかかるようにしゃがんでいる。

その体には痛々しいほどのアザができている。





「杏ちゃん?」





「…怒ってないよ」


中からかすかに杏の声が聞こえてきた。




「怒ってない…」



その声はいつもと明らかに違っていた。





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