君への距離~あなたに一番近い場所~
杏は翼の声にベッドにうずくまりながら耳をすませていた。



(あたしだって…翼くんの顔見たいよ?)



でも傷だらけの体を見たら、きっと翼は何があったのか知りたがる…





「じゃあ…電話かけるよ!話さなくていいから、聞いて?」


翼がそう言うと、杏の枕もとにあったケータイが鳴りだした。



杏は少しためらったが、出た。




「よかった…



杏ちゃん、何があったの?



僕に怒ってる?



あ、答えなくてもいいから切らないで!




あのね、今まで僕はまともに女の子と付き合って来なかったんだ…


野球のが大事で、


彼女とか、別にどうでもよくて…



でも、杏ちゃんは違うんだ。

野球なんかと比べられないくらい、すっごく大事で…



もうどうしたらいいのか分かんないくらい好きで…



二人でいるともうすっごい幸せで…



僕はリョースケみたいに話が上手なわけじゃないし、シオみたいに気のきくヤツでもないから



気がつかないとこで杏ちゃんを傷つけてしまったのかもしれない…



僕のこと、嫌いになったなら…」



「好きだよ!!」


翼の言葉を遮って杏は思わず声を出した。



「杏ちゃん…」

もう杏は止まらない。
「そばにいてほしい…。ずっと、一緒にいたい…。ずっと…」



杏が泣いているのが分かった。

「いるよ?ずっと一緒にいよう!」



「お願い、じゃあ約束して…。あたしを見ても何にも聞かないで…」



「…分かった。」



杏の玄関の鍵が開いた。



翼はゆっくりとドアをあける。



翼が中に入った瞬間、
杏は翼に抱きついた。


二人はふらついて玄関に座りこむ。




あったかくて、分厚い翼の胸に額をくっつけて杏はぎゅっと抱きついている。


「杏ちゃん…」


翼は杏の髪を優しく撫でた。




30分くらい、二人はそのまま抱き合っていた。



杏の泣き声がおさまった。


翼はそっと杏の顔を覗き込む。



(寝てる…)



翼は少し笑った。



杏は安心したようで、熟睡していた。





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