君への距離~あなたに一番近い場所~
「杏ちゃん!」


息を切らした翼が杏の部屋の前に立つ。


ハァ、ハァ…


無理もない、ここまで全力で自転車を飛ばしてきたのだから。




「杏ちゃ…」



ガチャ



杏が出てきた。案外すんなりと出てきたので、翼はホッとしたようだ。



「杏ちゃん…ごめん」


翼が深く頭を下げる。


「もう何も聞いたりしないから…、嫌なことは全部、言わなくていいから…



そばにいてくれないかな?」




杏は、下げている翼の頭を優しく撫でた。



「よしよし…」



杏は静かに微笑みを浮かべながら言った。



「もう十分だよ…」


杏の翼の髪を触る手が震える。




「…お別れ、しよ」






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