君への距離~あなたに一番近い場所~
杏はうつむいたままメンバー表の控え選手の欄に翼の名前を書く。



(――平・尾・翼)





スコアブックに、翼の名前を書くときはいつも、なんだかあったかい気持ちになった。



名前を書くだけで愛しい人がいるなんて…



だから今日も、


別れを選んだ今も、




愛しくて、愛しくて…





平尾翼、

――「平」という字がふと滲む。



いつの間にか大粒の涙が膝に置いたスコアブックに落ちていた。


ぼた、



(もう!止まんない)


ぼた、ぼた…





視界はぼやけるし、少し隣には翼がいるし、もうすぐ試合ははじまるし、



すっと杏の膝からスコアブックとシャーペンが消えた。



何も言わずに、翼はスラスラ続きを書いていく。



杏は慌ててタオルで涙をふく。





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