加茂川サンセット
「やっぱお前、変な奴だな」

聞き慣れた言葉だ。
別段気にせず返事をする。
多分、向こうが欲しているようなものではないだろうけど。

「私はそんな人間だよ」

人間、と自分で言って吐き気がした。
仕方がないのだ、人間に話を合わせる為だ、何度も自分に言い聞かせて相手の言葉を待つ。
大体予想はつくが。

「ぜってー変だよ、変人」

男は室岡英二、と言ったか。

某有名企業の社長の一人息子で幼少期から何不自由ない生活を送る。
五年前社長である父親が急死したため、室岡が跡を継いだ。
若干二十歳で大企業の長となり、今では二十五歳とは思えぬ貫禄すらある。


昨晩依頼書にざっと目を通したが、室岡が人に好かれるような人間ではないと把握した。

薄暗い店内には私達と他に三、四人の客、店員が二名しかいない。
午前三時という時刻だからだろう。

数時間前室岡に連れられこの場所に来た。

この仕事を始めてもう随分経つが、このような店に来るのは初めてだ。
薄暗いこの店はどうやら『バー』という施設らしい。
以前読んだ小説に出てきたものと酷似している。


隣では室岡が、アルコールが入っているらしく「変人、変人」とはしゃいでいる。


私が?それともお前が、か?
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