加茂川サンセット
「おー早いね、加茂郷」
「早く来てやったんだ」
女良の泊まっているホテルの部屋に窓から入り、人間の姿に戻る。
女良は私の姿を見るなり不満を漏らす。
「えーっ、加茂郷ずるーい」
「何がだ?」
「加茂郷、すっごい美人じゃん、その外見。あたしなんかさ、見てよ」
先程から蝙蝠の姿だった女良はそう言うと、仕事時の格好に戻る。
その姿は白髪に丸い眼鏡、歯が上下合わせて三本しかない老婆だった。
「これは愉快だ」
私が笑わずに言うと女良は皺だらけの顔をもっとしわくちゃにして憤慨する。
「不便なんだよ?これ!」
不平を言う女良の声は、歯が無いせいで聞き取りづらい。
「今回ばかりは許せないっての」
「三日辛抱すればいいだけじゃないか」
「三日も、だってば」
そう言って頬を膨らます姿も、老婆がやると滑稽に感じられる。
「用は何だ」
「あ、そうそう。ちょっと面白そうな事実が発覚したのよ」
「それは私に関係あるのか?」
「あーもうあるある、大あり」
女良は大きく頷きながら私にパンを寄越してくる。
丁度空腹だったので一口齧る。
それを見て女良もパンを小さく千切り、牛乳に浸けて柔らかくし、口に放り込んだ。
確かに、不便そうだ。