加茂川サンセット
「加茂郷の今回のターゲットってさ、室岡って男でしょ?」
「何故知っている」
仕事の内容は上司と依頼主と私達のような実行者しか知らないはずなのだ。
「今回のあたしのターゲットはさ、その室岡の元妻なんだよね。そして面白いことに、」
「面白いことに?」
私達は同時に三十二個目のパンを手に取った。
「依頼主は室岡だったのよ。で、加茂郷の方の依頼主は…」
「室岡の元妻」
女良は正解、といった風に私を指差し、四十一個目のパンを小さく千切った。
私だって依頼主のことくらい事前に調べている。
「更に面白いことに」
「まだあるのか」
「加茂郷の方は"不幸依頼"、でしょ?」
「当たり前だ」
私は"不幸担当"だからだ。
「こっちはさ、"幸依頼"なんだよね」
「幸?…おい、女良、お前いつから"幸担当"になったんだ」
驚くのはそっちの方だ。
つい最近まで私達は"不幸担当"だったはずだ。
「あたしさ、室岡の元妻には世話になったのよ」
「女良が?」
初耳だ。
「二年前にさ、あたし一回ミスって人間の糞ガキ共に捕まったことあるじゃない?」
「あったな」