スカーレットの雪


…楽しい時間は一瞬で過ぎる。この後奏ちゃんは、塾だった。

「じゃあ俺こっちだから」
「うん、頑張ってねっ!」

いつもは一緒のマンションに帰るのに、奏ちゃんの塾がある日は違う。それがちょっと寂しかった。

「気をつけて帰れよ」

奏ちゃんはそう言って、歩道橋を渡っていった。道路の向こう側に行くまで、あたしは歩道橋のふもとで見送る。

道路の向こう側には電化製品のお店と、昔からあるパン屋さんがある。あたしはそのパン屋さんが、昔から好きだ。

「…緋那!」

帰ろうとした背中に、奏ちゃんの声が届いた。あたしは思わず振り向く。

電化製品のお店の前で、奏ちゃんはこっちに向かって叫んでいた。

「…た、…るって!」
「え、聞こえない!」

車の音が邪魔して、奏ちゃんの声が聞こえない。歩道橋を渡って向こう側に行こうとしたが、奏ちゃんがそれを手で制した。

行き交う車が途切れるのを待つ。

近くの信号が変わり、車が途切れた。

奏ちゃんは再び叫ぼうとしたが、渡って来た方が早いと思ったのか、さっと車を確認してこっちに駆けてくる。

「気をつけて」、そう、言おうとした瞬間だった。
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