看護学校へ行こう
危機一髪!門限破り
 彼氏とは短いつきあいだった。別れてみて、電話でおしゃべりも出来なくなったし、なんとなく寂しさを感じていた。だが滝谷さんのことをすごく好きかと言われたら、そうでもなかったように思う。多分、恋に恋していたのかもしれない。それでちょっと無気力になってしまった。勉強も実習も適当にやっていた。

 年に一回、学期末テストがある。中学生の期末テストみたいなもので、範囲は広く、テスト期間は一週間に及ぶ。技術テストや実習ではなく、全部筆記試験だ。解剖学、生理学、臨床検査、栄養学、看護概論などなど、専門分野のテストばかりで、あげたらきりがない。この頃の私と言えば、授業中は昼寝の時間と化していた。テスト前も、遊び相手をみつけては、平日でも飲み歩いていた。飲み代は、実家に帰るのを一切辞めて、その分浮いた交通費でまかなっていた。お菓子や朝ご飯の費用も極力削った。そしてこの頃から「門限破り」をし始める。食堂の裏口から外に出て、同期の子に鍵をかけてもらい、下駄箱がある窓の鍵を開けておいてもらって、窓から侵入するという手口だ。最初の頃こそ罪悪感があったけど、しだいに慣れて、常習化してしまった。

 ある平日の夜、白田、まさちゃん、さっちと飲みに行った。軽く遊ぶ程度のつもりで出かけた。11時頃、

「さて、帰るか。」

となったので、いつものように下駄箱から侵入しようとしたら、窓が開かない。誰か気づいて鍵をかけたんだなと思い、みんなで青くなった。それでいったんどこかのパブに行こうということになり、行きつけのパブに行った。すると白田あてに電話が来ていると店の人に言われた。電話の相手はのだだった。どうやら私たちが行きそうな飲み屋を片っ端から電話していたらしい。とにかく白田が電話に出ると、のだは、

「大変だよ!三年生に気づかれてる。みんな現場を押さえようと、下駄箱付近にたむろしてるから、今帰って来ちゃ駄目だよ!」

と言われた。やばい。見つかってしまったら、一週間風呂掃除の上、全館放送で謝罪しなければいけない。それに当然このことは教務の知るところとなり、実家へ連絡が行くだろう。そうなると大事になる。
< 114 / 162 >

この作品をシェア

pagetop