看護学校へ行こう
本当は行きたければ東京に出てくれば良かったのである。だがそれほどの信念は当時、持ち合わせていず、親が無理して看護学校に進学させてくれたので、親の期待に背く勇気が無かった。

 さて、聖路加国際病院見学の次は、東京大学の研究室を見学することになっていた。私たちは無試験で東大の赤門をくぐった。日本一の大学の研究室。興味津々である。案内された研究室は、教授が一人でなにやら作業をしていて、たいした説明も無しに、

「どうぞ自由に見学してください。」

と言われた。つまりはほったらかしである。だだっ広い研究室を、皆自由に見学してくれという、愛想の一つもない研究に没頭する教授。それで勝手に見学を始めた。さすが東大の研究室だけあって、置いてあるものがきわどい。まず目に飛び込んできたのは、天井付近の壁一面に飾ってあるというか、貼り付けてある、刺青の彫ってある本物の人間の皮膚である。ちょうど背中全体と殿部、上腕部が切り取られていた。なんでも特殊加工してあり、腐敗しないんだそうである。だがそこで聞けば良かったのだが、これら何十人分もの刺青の背中部分は、誰の許可を得てはぎ取ったのか。みんながみんな、死刑囚ではあるまい。天井付近の壁だから遠目にしか見えなかったが、見事な刺青ばかりだ。よく人間の背中にあんな芸術作品をかけるものだと感心した。私は刺青の彫り師になる人は、なぜ絵が上手なのに彫り師の道を選んだのか、変なところで考えてしまった。彫り師の方が儲かるのだろうか。

 ひとしきり刺青を眺め終わると、研究室の展示品を見て回った。そして私がもっとも目を奪われたのは、生首のホルマリン漬けである。
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