看護学校へ行こう
だが借金の残債があるし、両親とも決して給料が良いとは言えない職場のようである。私への月4万円の仕送りもあり、生活はまだまだ厳しい。だが、一年近く借金の督促に苦しんでいた私たち家族にとって、電話が始終鳴り響かない生活が送れるだけ幸せだと思った。

 その夜、私は三畳間で寝た。まだ引っ越しの片付けがすっかり終わっていず、荷物がごちゃごちゃ置いてあるので、段ボールを隅によせ、無理矢理布団を敷いた。漫画の本を寝ながら読んでいると、古い家屋のせいか、天井から蜘蛛が垂れ下がってきた。私は飛び起き、ティッシュで握りつぶした。あちこち隙間だらけだから、虫がそこいらに住み着いているのだろう。とたんに惨めさがこみ上げてきた。

「こんな生活から絶対抜け出してみせる。ナースになって、お給料たくさんもらって、いつか結婚したら、立派な一戸建てに住む。」

そう誓った。

 次の日の日曜日、寮で生活するのに不足した衣類と、部屋のみんなに頼まれていた電気ポットを持ち、両親に別れを告げ、夕方寮に戻った。寮ではうみちゃんときしどが待っていた。彼女らは北海道の最果ての地からやってきているので、おいそれと家には帰れない。私が部屋に入ると、

「おかえり~。」

とうれしそうに言ってくれた。私は

「電気ポット持ってきたよ~。」

と言うと、二人は喜んだ。これでコーヒーやスープやカップ麺など多様に活用できる。まきよちゃんは、門限ぎりぎりに帰ってきた。

 9時15分になると、寮長が部屋をまわり、全員いるか確認に来た。そのあと9時30分から茶道室に集まり、ナイチンゲール誓詞を暗唱させられた。
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