看護学校へ行こう
 3週目、Bさんは字を書く練習を始めていた。利き手じゃないうえ、脳梗塞になったBさんの書く文字は、読み取れるものではなかった。それでもBさんに、

「奥さんに感謝のメッセージを送りましょうよ。」

ともちかけ、カードにマジックで文字を書く練習をした。私が考えた文章を書いてもらうのではなく、なんとかBさん自身の今の気持ちを書いてもらいたかった。だが集中力も判断力も低下しているBさんは、奥さんになんと書いて良いか、わからないようだった。それで私は、

「毎日来てくれてそばにいてくれることとか。」

といくつかヒントを出した。最初はすぐにペンを置いてしまうBさんだったが、急性期から慢性期への移行期の回復力は大きく、しだいに文字数が増えていった。私はこの時期にリハビリに力を入れないと、後の後遺症に大きく左右することを学習した。

 4週目。練習の成果があり、文字が震えながらもひらがなで短い文章が書けるようになった。奥さんが来るのは10時頃だ。それまでに私が作ったメッセージカードに、これまでなんども練習してきた一つの文章を書いてもらわなければならない。文字はとても下手くそだ。それでもマジックで、なんとかメッセージを書いてもらえた。

「いろいろ くろ かけて ごめん ありがと」

文字は震えていて筆圧も弱く、ようやく解読可能な位だった。それでも私が実習をしている間にここまで上達できたのだ。目に見えて患者さんが良くなっていくのは、うれしいし、今まで実習をしてきて、初めてやりがいを感じた。それまでの私は、実習で患者さんに一生懸命関わるということを、あまりしてこなかったのだろう。患者さんが日に日に良くなっていったのは、私の力じゃないかもしれないが、少なくとも奥さんにメッセージカードは作れた。それは私のアイデアだ。今回の実習だけは、処置につくことが少なかったが、自分なりに初めて看護らしいことをしたと思えた。

 
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