看護学校へ行こう
寮は冬休み中は、防犯上の関係でいられない。仕方が無く病院の近くの小さな旅館で過ごすことになった。それでなくとも金が無いのに、親に事情を話して旅館の泊まり賃を出してもらった。まったく、親にも同級生にも恥ずかしくて顔向けできない。私はさながら、大物作家がひなびた宿に寝泊まりしながら原稿をしたためるがごとく、夜な夜な旅館で実習レポートを書いていた。

 肝心の実習はというと、もはや開き直っており、おどおどもしなくなり、学生は私一人とあって、やれるだけのことはやった。肩の力が抜けて、患者さんと、和気あいあいと談笑したりした。スタッフには、例の先輩以外に質問するようにした。中には、

「せっかくの冬休みなのに、かわいそうだね。」

と同情してくれるナースもいた。主任さんも多少気の毒に思ってくれたのか、怒られることはなかった。宿に帰ると、教務長のチムチムが、ジュースやお菓子をわざわざ差し入れにきてくれた。こうしてなんとか2週間の実習を無難に終わらせ、晴れて合格となった。

 学生生活最後の長期休暇だというのに、3分の2は実習していた私。

「他の人よりよけいに実習したから、勉強になったな。」

と、済んでしまってから思ったりもしたが、目前にせまる看護婦国家試験の勉強は、何一つしていない私であった。
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