看護学校へ行こう
 ある日の夕方、廊下でのだとすれ違った。私の部屋のちょうど前の窓があるところで、のだは、

「ちゅう、見て!」

と窓の外を指さした。窓から見える景色と言えば、街のビルばかりである。ところが夕暮れのビルの上空は、ネオンの色と暮れかけた夕日が混ざり合い、紫からオレンジ、藍色へとグラデーションをかもしていた。

「まるでマンハッタンのようだねえ。いつもそう思ってたんだ。」

とのだが言う。古ぼけた寮の廊下の、小さな窓から見える、マンハッタンの空。3年間暮らしていてマンハッタンの空を見たのは、最初で最後だった。美しかった。

 私は卒業式まで各部屋をまわっていた。みんなと話しておきたかった。普段あまり会話をしないふじ山と、明け方までしゃべった。お互い熱弁をふるい、看護のことや、これからの人生について、語り合った。

 卒業式のあとは、謝恩会がある。ホテルで行い、病院のドクターも参加する。だから皆、正装する。謝恩会には父母らは参加しないが、卒業式は両親ら家族も来る。まやちゃんは謝恩会の時に着るスーツは先週の土曜日に外泊したとき持ってきたが、スーツに合わせるパンプスを持ってくるのを忘れた。そのことに気づいたのは卒業式前日である。それで実家に電話して、お母さんにパンプスを持ってきてもらおうとした。ところがお母さんは友達と旅行に行っていて、旅行先からまっすぐ卒業式に来るという。それで仕方が無くお父さんに、

「パンプス持ってきてよ。」

と頼んだ。
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