看護学校へ行こう
つまり、お風呂で裸のまま部屋番号と出身校は言わず、「おばんでございます」だけ言えば良いこと、お風呂のお湯を体にかけるたびに「お湯ちょうだいします」などと言わなくて良いこと、おでこは出さなくて良いこと、名札もはずして良いこと、朝寮の鍵を閉めるとき、「じょっぴんかりまーす」などと言わず、「鍵かけます」で良いこと、ナイチンゲール誓詞を暗唱するために夜の9時半に集まらなくて良いことなどを教えてもらった。これらの「嘘コン」は伝統になっていて、いわゆる寮の禊ぎであった。まきよちゃんは怒っていたが、とにかくいちいちおでこをあげなくて良いし、名札もつけたり外したりしなくて良いから助かった。何より風呂である。今まで入浴するにも躊躇していたのが、これで安心してお風呂に入れるというものだ。

 お部屋まわりが終わった頃から、一年生同士でお互いの部屋に遊びに行き始めた。ここから本格的に寮生活に馴染み、青春を謳歌することになる。学校では授業はさくさく進んでいた。この頃はまだあまり忙しくなく、テスト間近以外、真剣に予習復習しなくなってきた。学校でも近くの席の人と打ち解け始めていたし、学年30名中27名が寮生だったので、寝ても覚めても勉強もご飯も24時間みんな一緒である。この頃から寮生活の「暗黙の了解」みたいなものもつかめてきたし、廊下とお風呂で先輩に挨拶さえしっかりしていれば、あとは自由だ。門限は9時15分だったけど、平日は忙しくて外出する人はあまりいない。せいぜい授業が終わったら、食材を買いにスーパーに行くくらいである。


< 19 / 162 >

この作品をシェア

pagetop